02-01 オホーツク海だけが凍る理由
オホーツク海は、北半球で最も南に位置する凍る海の南限です。 北海道周辺には、日本海、太平洋もありますが、オホーツク海だけが凍る海なのは、なぜなのでしょうか?。まずは、凍る謎について知っておきましょう。 オホーツク海が凍る理由には、3つの条件が上げられます。 ①閉鎖的な海 ②特殊な海洋構造 ③寒気団と季節風 それでは、一つづつ見ていきましょう。
出典:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
図-1 凍る海の条件
①閉鎖的な海
オホーツク海は、北海道、大陸、サハリン、カムチャツカ半島、千島列島に囲まれた比較的閉鎖的な環境にあることがわかります。 海水交換は、宗谷海峡を通して日本海、千島列島の各水道を通して太平洋と交換がありますが、幅も狭く水深が浅く狭い水路となっており、限定的であることがわかります。
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図-2 閉鎖的な海域
面積
オホーツク海の表面積は、約152.8万km2です。日本の領土の総面積が約37.8万km2ですから、約4倍の大きさがあります。
水深
オホーツク海の中央部は、中央海盆と呼ばれる水深1,000mから1,600mのすり鉢状の地形が広がり、その南に千島海盆と呼ばれる最も深い場所がある。最深部は千島列島近くで水深3,658mです。
海水交換
千島列島の各水道および海況は、国後水道(国後[くなしり]島と択捉島[エトロフ]の間)が幅約23km、択捉海峡(択捉[エトロフ]島と得撫[ウルップ]島)が幅約41km、得撫[ウルップ]島と知理保以南[チリホイナン]島の間が幅約30km、知理保以[チリホイ]島と新知[シムシル]島の間が幅約67km、雷公計[ライコウケ]島から捨子古丹[シャスコタン]島の間が幅約72kmなどとなっています。 最も深いとされる知理保以[チリホイ]島と新知[シムシル]島の間が幅約67kmは、北得撫水道と呼ばれ、最も深い水深は2,225mと言われています。 宗谷海峡は最深部で約60mです。 このようにオホーツク海とその他の海との間には、限られた海峡や水道しか無く、水深も北得撫水道以外は2,000mより浅い海域となっているため、海水交換が極めて少ない海域であると言えます。
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図-3 千島列島
②特殊な海洋構造
アムール川
オホーツク海の特殊な海洋構造を語るうえでアムール川の存在はとても大きいです。 アムール川は、ユーラシア大陸の北東部を流れる川であり、中国では別に黒河、黒水などとも呼ばれています。上流部の支流を含めた全長4,368 kmは世界8位、流域面積は185万5500km2で世界10位の河川です。平均流量は11,400m³/sです。 日本の最大流量河川は、信濃川(観測所:小千谷)488.56m³/sですから、23倍にもなります。閉鎖的な海域に大量の河川水が流れ込んだら、どうなると思いますか?そうです。塩分が薄い層が形成されるのです。 なお、以下の図は、「Google Map」を使って作図しました。
図-4 アムール川
ロシアのハバロフスク付近で北東に流れを変え、ロシア領内に入り、オホーツク海のアムール・リマンに注いでいます。リマンとは川の河口を指し、リマン海流は日本海を流れる海流です。 アムール川はモンゴル高原東部のロシアと中国との国境にあるシルカ川とアルグン川の合流点から生じ、中流部は中国黒竜江省とロシア極東地方との間の境界となっています。
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図-5 アムール川水系
表層低塩分水
アムール川からの大量の真水の供給により誕生した塩分が薄い水塊。これを表層低塩分水と呼んでいます。 オホーツク海の表面積は約152.8万km2ですから、1年間の流量は表層23.5cmに相当し、約4年と92日で1m層を満たす計算になります。実際は、薄く広がる一方で時化や風波などで攪拌されて塩分が薄い水塊が形成されます。 実際の観測データで見てみましょう。 オホーツク海沿岸域の海洋構造と生物生産(工藤勲ら、沿岸海洋研究 第49巻,第1号,13-21,2011)によれば、オホーツク海北海道沿岸から約20km以遠に塩分32.75以下の低塩分水が分布しているのがわかります。層厚は沿岸から約100kmで約50m層になっています。 このような2層構造の海では、塩分の薄い層と濃い層の間に「躍層(やくそう)」と呼ばれる水深変化に対して変化が大きい層が形成されます。その上層と下層の密度差が大きいため対流が及ばない層が出来上がるのです。
出典:沿岸海洋研究 第49巻,第1号,13-21,2011
図ー6 オホーツク表層低塩分水
海水の密度
ここでは、簡単に記述しておきます。詳細は「水塊の密度」に記述しています。 アムール川の真水の供給で塩分が薄い層と濃い層が存在する特殊な海域環境であることを示してきました。 それでも、同じ海水なんだから混ざるんじゃないって思いますよね。 塩分の薄い水塊=密度が軽い水塊、塩分の濃い水塊=密度が重い水塊では、混ざりにくい性質があることを覚えておきましょう。ちょうど「水と油」をイメージしていただけるとわかりやすいと思います。
③寒気団と季節風
極域からの寒気の吹き出しも重要な役割を果たしています。 この寒気の張り出しと北寄りの季節風により、オホーツク海の海面は一気に冷やされます。
図-6 上空を覆う寒気
北海道周辺の水塊構造
オホーツク海の海洋構造を日本海や太平洋と比較しながらイメージを図化してみましょう。 繰り返しになりますが、秋から冬にかけて、日本海も太平洋も寒気によって表面から冷やされます(A)。冷やされた海水は、密度が重くなるので沈みます(B)。日本海や太平洋は、密度の異なる水塊が共存していないので、海底まで対流層が及びます。冷やされるのに凄い時間がかかるのです。 それに対して、オホーツク海には2層構造といいう特殊な海洋構造があります。冷やされるのは、塩分が薄い約50m層のみとなります(C)。 水塊全体が結氷温度に達すると凍り始めますから、オホーツク海だけが凍り、他の海では結氷温度に到達する前に春が来てしまうというわけです。
図-7 北海道周辺の海域の海洋構造概念図
■奇跡の海
ここでもう一度考えてみましょう。 オホーツク海は、閉鎖的な海で水塊の交換が少ない海域であることを知りました。そこへアムール川からの大量の真水の供給があり、表層低塩分水が生成され、塩分の薄い水塊と塩分の濃い水塊が2層構造を作り出していることを学びました。
図-8 オホーツク海を覆う流氷